お腹の赤ちゃんの心拍が確認された頃、お母さんの手元に届く母子手帳。母子手帳には赤ちゃんの成長を記録するページの他に、妊娠中のお母さんの様子を記入するページが設けられています。
その中には「妊娠中と産後の歯の状態」という項目も含まれます。そして記入欄の下には、
・妊娠中は虫歯や歯周病が悪化しやすいこと
・歯周病は早産などの原因になるので注意し、歯科医師に相談すること
などが記されています。
この記載にあるとおり、妊娠中は通常時よりもお口のトラブルに見舞われやすく、またそのトラブルが妊娠生活にも悪い影響を及ぼす恐れがあります。そこで今回は妊娠中の歯科との関わり方についてお話ししていきたいと思います。
近年は妊娠した時に配布されるリーフレットや母親教室でも、妊娠中に必ず一度は歯科を受診することを推奨しています。また自治体によっては妊婦さんを対象にした歯科健診を定期的におこなっているほか、無料で健診を受けられる受診券を配布しているところもあります。
ではなぜそこまで妊娠中の歯科受診が重要視されるのか。それは以下の2つの理由にあります。
妊娠中はつわりや偏食によって通常時よりもお口の中が不衛生になりやすく、虫歯や歯周病になるリスクが高まります。
また妊娠によって増加する女性ホルモンがある種の歯周病菌の活動を活発にすることから、妊娠中は特に歯ぐきに関するトラブルが多くなります。
妊娠中に特に注意しておきたいのが、歯周病です。妊婦の歯周病は早産(妊娠27週から37週未満の出産)や低体重児出産(2500g未満の新生児出産)のリスクを高めることが明らかになっています。
これは歯周病菌や歯周病によって産生された炎症物質によって引き起こされるもので、そのリスクはアルコールやタバコよりもはるかに高いことがわかっています。
妊娠中に虫歯になったり、歯周病が悪化したりした場合でも、妊娠中期(妊娠16週から27週まで)であれば以下の治療は問題なくおこなえます。
・虫歯治療(歯を削る・神経を取る等)
・歯周病治療(歯石除去)
・歯のクリーニング
・簡単な抜歯 など
ただし親知らずの抜歯やインプラント手術など、大がかりな外科手術は母胎への負担が大きくなるため、妊娠中の処置は控えます。
お母さんが最も不安に感じるのは、麻酔やレントゲンがお腹の赤ちゃんに与える影響だと思います。しかし基本的に歯科治療でおこなう麻酔やレントゲンは局所的(お口の中に限定している)であるため、お腹の赤ちゃんにその影響が及ぶことはありません。
やたら神経質になって治療をあきらめたり、痛みを我慢しながら治療をおこなったりするほうが、かえって母胎への影響は深刻になります。お腹の赤ちゃんのため、そして自身のためにもこの時期に適切な治療を受けておきましょう。
母胎がまだ安定せず、流産のリスクが高い妊娠初期や、母胎への負担が大きい妊娠後期では、通常の歯科治療をおこなうことができません。この時期に起こるトラブルは応急処置(消毒など)にとどめ、本格的な治療は妊娠中期に入ってから、もしくは産後におこなうようにします。
妊娠中におこなうお母さんのお口のメンテナンスは、生まれてくる赤ちゃんの虫歯予防にも良い影響を与えます。反対にお母さんのお口が不潔で虫歯が多いままだと、赤ちゃんが将来虫歯になるリスクも高くなるので注意しましょう。
お腹にいる赤ちゃんのお口の中に虫歯菌はいませんが、生まれて間もなく周囲の大人のお口の中から虫歯菌が感染してしまいます。実際に子どもの虫歯菌を詳しく調べてみるとその多くは母親由来であり、次に父親、祖父母の順となっています。
赤ちゃんの虫歯予防は生まれてくる前「マイナス一歳」から始まります。妊娠中のお母さん、そしてお父さんのお口のケア次第で、生まれてくる子どもの歯を虫歯から守れるかどうかが左右されるのです。
以上のように妊娠中に虫歯や歯周病などのトラブルを回避することは、健康的な妊娠生活を送り、安全な出産を迎えるためのお母さんの重要な任務といって過言ではありません。またこの時期にお母さんのお口の環境を整備しておくことは、生まれてくる赤ちゃんの歯を虫歯から守ることにもつながります。
そのため妊娠中にたとえトラブルがなくても、安定期に入ったら必ず歯科健診を受け、歯や歯ぐきのチェックやクリーニングをおこないましょう。