近年、歯周病と内分泌系の病気(糖尿病など)や脳の病気(脳梗塞など)の深い関係が様々な研究結果で報告されています。本日は歯周病のもたらす全身疾患への悪影響についてお伝えしたいと思います。
糖尿病に関して、知っている人も多いと思いますが、血液に含まれる糖の量が多くなる病気です。血液の中の糖が多くなる理由には、インスリンという血液の中の糖を細胞に取り入れるホルモンが少なくなっておこってしまう人(1型糖尿病)、または、インスリンが利きにくい体になってしまう人(2型糖尿病)がいます。日本人の糖尿病は後者が多いと言われています。
血液内の糖が多くなると様々な要因から血管がボロボロになります。そうすると、小さな血管が張り巡らされている目や腎臓などに悪影響を及ぼし、色んな臓器が正常に機能しなくなるのです。厚生労働省の調査によれば、糖尿病予備軍を含めると推定1000万人いると言われています。
一見、歯周病と関係のないように見える糖尿病ですが、深い関係があります。歯と歯茎の間にある歯周ポケットは、歯周ポケットのひとつひとつを広げ、お口全体でみると、手のひらサイズにくらいになると言われています。歯周病は歯肉の炎症によって起こりますので、出血や膿を出しているような炎症を起こしている歯周ポケットからは、炎症に関連した炎症物質(サイトカイン)が血管を通って体中に放出されます。加えて、歯周病の原因菌が血管内に入ることによって、原因菌は体の白血球などによって壊されますが、原因菌の細胞壁にあるエンドトキシンという毒素によって、さらに炎症が助長されます。この炎症物質がインスリンの効果を弱め、体の中の血糖値を下げにくくすると言われています。
実際に、歯周病治療をすると、血糖コントロールが改善するという報告が多数されています。一方で、歯周病治療をした全ての糖尿病患者さんの血糖コントロールがされているわけではありません。どんな患者さんに有効なのかは、これから更に原因が解明されてくると思います。
誤嚥性肺炎とは、飲み込む力(嚥下機能)が弱くなって、食べ物や異物、そして、お口の中の細菌も一緒に誤って気管や肺に送り込んでしまい起こる肺炎です。特に高齢者や脳血管疾患(脳梗塞、脳出血)などの疾患を起こした人に起きやすく、死に繋がる怖い疾患です。この誤嚥性肺炎の原因になる細菌の大半が歯周病菌と言われています。歯周病のコントロールをすることが生死にも関わることが示唆されています。
動脈硬化とは、血管内にプラーク(脂肪性の沈着物)が溜まり、血管の通路が狭くなることによって、血液が組織に行き届かなく疾患です。この動脈硬化も糖尿病同様に炎症によって、悪化すると言われています。前述したとおり、歯周病によって、歯周ポケットから炎症物質が全身に放出されることで、動脈硬化が進行することが示唆されています。
心臓で動脈硬化が起き場合、虚血性心疾患や心筋梗塞と言われ、重篤な転帰をたどります。研究報告によれば、実際に動脈硬化を起こした冠動脈(心臓の大きな血管)を調べると重度の歯周病患者において、血管壁に歯周病菌が見つかっている割合が高いという報告もあります。
日本人の死因の第四位である脳血管疾患、その約半数は脳梗塞が原因で亡くなっています。この脳梗塞になるリスクとして、歯周病の人は歯周病でない人よりも2.8倍脳梗塞になりやすいという報告がされています。
前述した疾患への悪影響が近年分かってきましたが、中でも妊婦に対する悪影響が問題視されています。妊婦が歯周病になっている場合、生まれた時の体重が2,500g未満の低体重児や早産の割合が高くなることが指摘されています。
この原因は、口の中の歯周病菌が血液を介して、胎盤に行き、胎児に感染しているのではないかと言われています。そのリスクは歯周病でない人の7倍になると報告されています。タバコやアルコールよりも高いリスクとも言われています。
生まれてくる赤ちゃんのためにも、若いうちからお口のケアを行い、歯周病にならないことが大切ですね。
この他にも、「歯周病と骨粗しょう症のリスクを上げる」「歯周病とメタボリックシンドロームのリスクを上げる」などの報告がされています。まだ原因を研究している段階ではありますが、全身への影響は少なからずあることがわかってきています。歯周病は、単なるお口の問題というだけでなく、全身への影響、死にも繋がる重篤な病気にも影響してきます。毎日のお口のケア(セルフケア)、そして、定期的な歯医者さんでのお掃除(プロケア)が欠かせません。セルフケアとプロケアでお口の健康と体の健康を一緒に守っていきましょう。