近年は市販の歯磨き粉のおよそ9割にフッ化物が配合され、虫歯予防のフッ素は私たちの身近な存在となっています。ただ実際にフッ素がどのようなメカニズムで虫歯を予防してくれるのか、そもそもフッ素とはどのような物質なのかを知っている人はそれほど多くありません。
そこで今回は改めて、今や虫歯予防の代名詞ともいえるフッ素について詳しくご紹介していきたいと思います。
フッ素は自然界に多く存在する元素で、私たちが普段口にする食品にも含まれています。例えば魚介類や茶葉などはフッ素の含有量が多いほか、野菜や肉類、味噌や砂糖、塩などの調味料にもフッ素は含まれています。
これらの食品から摂取したフッ素のおよそ10%が体の組織に取り込まれ、残りの90%は24時間以内に体の外へ排出されます。では体内でフッ素はどこに蓄えられているかといえば、そのほとんどが歯と骨の組織。つまりフッ素は丈夫な歯や骨を作るために欠かせない元素なのです。
フッ素はあらゆる食品に含まれ、WHO(世界保健機構)やFAO(食糧農業機構)の2つの国連機関も、フッ素を必須栄養素の1つに指定しています。
しかしいくら歯を丈夫にするといっても、大量のフッ素を体内に取り込めば急性中毒や慢性中毒を引き起こしてしまいます。フッ素の急性中毒症状としては嘔吐や下痢、腹痛などの胃腸障害、また慢性中毒症状としては斑状歯(はんじょうし)や骨硬化症などが有名です。
つまりフッ素を体に取り込むことで歯を強くするには、安全面を考えると限界があるというわけです。
大量に摂取してしまうと中毒を起こしてしまうフッ素。このフッ素を効率よく、しかも体に害なく歯の中に取り込むために考えられたのが、フッ素を歯の表面から直接取り込ませる方法です。
ただフッ素は非常に不安定な元素で、通常は他の物質と結合した「フッ化物」として存在します。虫歯予防で実際に使用されるのもこの「フッ化物」で、具体名として
・フッ化ナトリウム
・フッ化第一スズ
・モノフルオロリン酸ナトリウム
といったものが、歯磨き剤などにも含まれています。
次にフッ素(フッ化物)を歯の表面に塗布すると、どのようなメカニズムで虫歯を予防するのかみていきましょう。
歯の表面を覆っているのは、水晶と同程度の硬さをもつエナメル質です。このエナメル質の主成分となるのは「ハイドロキシアパタイト」という物質ですが、ハイドロキシアパタイトの結晶には構造的に弱い部分があります。
フッ素にはこのエナメル質の欠陥を補強するほか、新たに「フルオロアパタイト」という強い結晶構造を生みだすことで、虫歯菌の酸に負けない強い歯を作り上げていきます。
虫歯は虫歯菌の出す酸がエナメル質を溶かすことから始まります。しかしお口の中には溶けだしたエナメル質の表面を修復する「再石灰化」という機能が備わっています。
虫歯の初期の段階でこの石灰化機能がうまく働けば、歯を健康な状態に戻すことが可能です。フッ素にはこの再石灰化を助ける働きがあります。
虫歯は虫歯菌が作る酸が原因で発生しますが、フッ素には菌が酸を産生する能力を抑える働きがあります。また虫歯菌の動きを弱める働き(静菌作用)も持っています。
フッ素(フッ化物)を用いた虫歯予防には①フッ素配合歯磨剤の使用②フッ素塗布③フッ素洗口の3つの方法があります。
フッ素は生えたての歯ほど吸収されやすいため、乳歯が生える生後6カ月ごろから、すべての永久歯が生えそろう15歳までの使用が特におすすめです。この時期にフッ素を効果的に利用しておけば、生涯を通して虫歯になりにくい歯に育てることができます。
また大人になってからもフッ素の効果は有効ですので、ぜひ普段のケアに積極的に取り入れていきましょう。
①フッ素配合歯磨剤の使用
フッ素を用いた虫歯予防のうち、最も手軽におこないやすいのはフッ素配合歯磨剤の使用です。冒頭でもお話ししたように、皆様が普段使用している歯磨き剤のほとんどにフッ素(フッ化物)は配合されています。
②フッ素塗布
先述にもあるようにフッ素は多量に摂取すると体に有害なため、歯磨き剤などのフッ素(フッ化物)の濃度は非常に低く設定されています。虫歯予防の効果をさらに上げるには、歯磨き剤よりもさらに濃度の高いフッ素塗布を定期的に歯科医院でおこなうのがおすすめです。
③フッ素洗口
フッ素洗口はフッ化物の溶液をお口の中に含んでブクブクうがいをし、歯の表面にフッ素を塗布させる方法で、保育園や幼稚園、学校など集団予防でよく用いられます。
また家庭で使用できる洗口剤も販売されており、歯磨きが不十分な幼児や高齢者、ハンディキャップのある方の虫歯予防におすすめです。